■〔映画評Vol.4〕『レイクサイド マーダーケース』(2004/青山真治) |
こんばんは~(^^) さて、僕は月に何度かは映画館に足を運ぶ訳ですが、 時おり、 *** あまり宣伝もされずに公開された映画が封切り後に評判が徐々に高まって行く、 ―という虚しさに直面します。 ********* 例えば今年に入ってからは、 ◆『レイクサイド マーダーケース』(1月公開、3週間で終了) ◆『セルラー』(※左Ph・下Ph/都内に関しては2月公開、「ワーナー・マイカル・シネマズ 板橋」を除き2週間で終了) ―の2本が僕を虚しくさせた公開・興行形態でした。 そう、これらの映画自体に罪はなく、配給会社の宣伝を含めた公開・興行形態の拙(まず)さだと僕は思っています。 ともかく、大々的に宣伝予算を掛けられなかった映画でも、もっと、何と言うか…大事に映画館上映をして欲しいものです。 もちろん、映画は鑑賞体験するまでは「絶対面白いデス!」等と大それたことは言えぬ訳ですが、 少なくとも公開後にじわじわと評判、好評価が広がって行くものに関しては興行期間の見直しなどに少しでも反映されないものかと思う次第。 ********* さて、僕は『セルラー』は見逃す結果と相為りましたが、 もう一方の『レイクサイド マーダーケース』(※左Ph)は封切翌日(1/23)に「日比谷スカラ座2」で鑑賞出来ています。少なくとも僕に取っては、十分に映画の中に耽溺できる118分であり、青山真治という作家性の強い映画を多く撮って来た監督が持つ、これまで見えにくかったウェルメイドな娯楽映画をも撮れる職人性が堪能できる文字通りウェル・メイドな娯楽映画であった訳です。 公開直後には少なからぬ映画関係のBBSでも好評価の書き込みが増えて行きました。否定的な評価もありましたが、それを含めてこの映画への注目度は高まっていたという実感を持っています。 僕自身は仕事がある程度片付く2月12日(土)頃にもう一度鑑賞したかったのですが、確か2月の初め頃にウェブ上の映画情報を見た際に、2月10日(木)だったか…での上映終了を知り愕然、平日の最終回に駆けつけることなどその頃は先ず持って不可能だった訳ですから…。 さて、 以下に(今年一回だけ鑑賞することが出来た(^^))『レイクサイド マーダーケース』について以前に纏(まと)めたものを御披露目いたします。 隠蔽された大罪の露顕を示唆する天の視点 ***ネタバレ注意 本作『レイクサイド マーダーケース』は、姫神湖なる湖、その湖畔の森の中に建つログハウスを主舞台とし、 そこに名門私立中学の受験合宿の為に集う並木舞華(牧野有紗)始め3人の子供と其の両親たち(役所広司・薬師丸ひろ子扮する並木俊介・美菜子夫妻、柄本明・黒田福美扮する藤間夫妻、鶴見辰吾・杉田かおる扮する関谷夫妻)、 謂わば合格請負人たる塾講師・津久見勝(豊川悦司)、 加えて、主人公の愛人である女流カメラマン・高階英里子(眞野裕子)、 ―といった登場人物たちが、所謂“お受験”に翻弄され底無しの荒廃に落ちて行く姿が紡がれて行く映画だ。 主人公の並木俊介を始め所謂大人たちは、劇中、その隠蔽して来たものを他者の前に晒さざるを得なくなって行く、それらの綯(な)い合わさったものは、或いは誰もが抱え持つ醜い利己性、背負った業に通じるがゆえに僕等観客の内面を衝くのだろう。 また、彼等が森や湖上の闇にあって、突然その闇を裂く車のライトに身を固めて立ち尽くしたり慌てて身を伏せるような瞬間がある。これらの場面に僕等観客の身体もが凍り付いてしまうのは、闇を切り裂かれた登場人物たちの慄きと僕等観客の隠し持つ闇が切り裂かれる怖れとが共鳴するからでもあろう。 たむらまさきのキャメラが一貫して緊迫感を孕み艶っぽい。 特に、湖畔に於ける夜や明け方の空気の肌理が塗り込められたような青味が殊のほか美しく、この、時間の移ろいに因って趣を異にする青味の階調の余韻が本作の映像のルックの基調を醸成して行く。 またそのキャメラは、戸外が絡むシーンに於いては深閑とした森と湖に漠と漂う不穏な気配を捉え、一方、ログハウス内、ホテルの一室、英里子の暗室等の密室空間に於いては、登場人物たちが隠し持つものが醸し出す不穏さを濃密に示す。 登場人物個々の利己性を的確に表現した俳優たちの演技からも目が離せない。 特に、映画の核となる並木夫妻に扮する役所広司、薬師丸ひろ子の映画栄えが絶品だ。 美菜子に扮する薬師丸ひろ子は時おり未来を垣間見る能力を持つ女性を演じる訳だが、例えば、その大きな目が赤く輝き示されて行くフラッシュフォワード(未来予見)のビジュアルに薬師丸自体が負けていない。 片や、無頼風情なアートディレクターで身勝手な夫、父親たる並木俊介に扮する役所宏司は、劇中最も転落幅の大きな役どころを演じ切って正に圧巻。 そして、本作が映画初出演となる眞野裕子が演じる、主人公の愛人であり同僚である高階英里子のキャラクターは映画に新鮮な驚きを加えて余りある。 映画冒頭に於けるプールの水面を背に仰向けになったモデルを俯瞰撮影する彼女の視線は、**に於ける湖面から浮上した死者の視線(―自身の未来)を垣間見てもいた…。何にせよ、そのカメラを覗く熱中の視線、自身が嘗(かつ)て在籍してもいた名門私立中学の入試不正をカメラと共に追って行く探偵的視線、並木俊介の妻に手向ける敵対的な視線、それらに一貫する“眼差しの強度”は眞野裕子によって真に本作の要と相成った。 母・妻―美菜子、娘―舞華、愛人―英里子、 その三人個々の多面性も劇中印象深く示される。 例えば、 英里子が主人公と青いソファで抱き合っているシーンでの、 「並木さんの事は何でも知っているの」「心配しないで、家庭を壊すような事だけはしないわ」「娘さん大事にしなね」等と何を恨む風でも無く語る英里子の諦観したような一見大らかな女性性、そして、並木の妻・美菜子に向ける何処かしら……敵対的な視線、 父・俊介を見詰める舞華の喜びに満ち溢れた真っ直ぐな眼差し、夫婦の諍(いさか)いを目の当りにした直後に血の繋がってはいない父親の傍に寄って行き「大丈夫?お母さんと」と気遣う健気さ、殺人隠蔽の始まりを示唆しているのであろう陶器(?)が割れ落ちるイメージに続く風呂上りの舞華が見せる女性の色香をも纏った目つき…、 そして、 美菜子の劇中ほぼ苛立ちに一貫した目、表情、素振り、 英里子と向き合った際の、憎悪を湛えた赤く輝く目、 終幕ほど、夫を前にふと覗かせる安堵の表情、 ―その綺麗な顔貌からだけでは容易に計り知れぬ三人の女性たちが内に秘めた魔性というものを、青山真治監督は三人の女性の目が宿すものによっても示し得ていよう。 並木俊介はカメラの閃光や湖面の照り返しに、「熱っ」等と、猛烈な拒絶反応を示す。一見、過剰とも映るその拒絶、苦痛の身振りは、映画終盤に示される、英里子のカメラが捉らえた入試****の証拠写真、そして、湖底に沈めた死体の露顕が彼の身を滅ぼす瞬間の暗示かもしれない。 終幕、主役夫婦の居る部屋の天井に吊された装飾が風を受け回転している、それは、湖上中空に浮かぶ英里子の周りを巡る姫神湖を擁した風景に繋がる。そして、雲を突き破って姫神湖に舞い下りる天の視点ともいうべきものが唐突なフラッシュフォワードを呼び映画は幕を閉じる。 |
by oh_darling66
| 2005-03-24 02:11
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